キングダム 38巻 「新しい国」
*ネタバレあり*
- 作者: 原泰久
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2015/04/17
- メディア: コミック
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前巻では、国をつくってしまった太后様。
久々の登場に、
もう、いらんことして〜。。。
信の次の戦も、政の加冠の儀もしばらく先延ばしかよ〜。。。
と邪魔に思っていたわたくしでしたが、
まさかそのどちらにも関わってくる展開になろうとは‥‥!
そして、今巻ではさまざまな人物たちの心の声が描かれており、
久々に内面側のキングダムを堪能できる巻だと思います。
巻末おまけも、読者待望(?)の展開に!
それでは、あらすじから追っていきます。
【あらすじ】
嫪毐(ろうあい)を君主とし、太原で"毐国"の建国宣言をした太后。
その毐国では、太后の側近宦官である趙高(ちょうこう)が政治的手腕を発揮し、国としての骨格を一手に作り上げていた。
有能な文官を他国から買い集め、金を使って大国・"楚"と裏で繋がるなど、大方の予想に反して毐国は着々と独立国家としての体を形づくっていく。
呂不韋は、相国として政治的な話をしに来たのではなく、
太后に対して"恋人としての本当の別れ"を告げに来たのだと話す。
そして、後にも先にも己の心を奪った女は太后だけであり、
出会った頃から変わらずずっと愛している、
と一方的に告げると、
呂不韋の予想外の発言に思わず固まる太后を置き、立ち去っていった。
その頃、著雍では、緊急ではあるが正式な論功式典が執り行われていた。
著雍での対魏戦、そしてその後の築城と防衛戦の功により、騰将軍が秦国二人目の大将軍に任命される。
そして信と王賁は、ふたり揃って四千人将から五千人将への昇格が決定した。
著雍守備戦での功を考えれば、作戦を描き勝利に導いた王賁と信が同列昇格なのはおかしい、と玉鳳隊からは怒号が飛ぶも、
飛信隊のメンバーや信は、将軍まであとひとつの位となった今回の昇格を素直に喜んだ。
そして年が明け、ついに始皇9年。
政の"加冠の儀"が執り行われる年となる。
五千人将となった信は、隆国将軍の下につき、著雍防衛や築城の任務にあたっていた。
最低限の守りの砦が完成すれば、
いよいよ著雍を拠点とした魏国攻略戦が始まる。
その築城の完成は、もうあと一歩のところまできていた。
一方、毐国では、突然の騒動が巻き起こる。
太后と嫪毐の間の"不義の関係"が側近達の知るところとなったのだ。
毐国大臣・虎歴(これき)の報告では、
ふたりの間に出来た隠し子の存在が咸陽にばれ、怒った咸陽は毐国を討つべく軍を興す準備に入っているという。
虎歴は、秦軍が攻めてくる前にいち早く挙兵し、奇襲をかけるよう嫪毐に促すが、
嫪毐は、毐国で平穏な生活を望む太后の真の願望を知るが故に、即断を避ける。
10日が経ち、大多数の側近達は太后に対し早急に挙兵するよう非難しはじめ、
すっかり虎歴大臣の扇動に流されてしまっていた。
太后は、暴動を促す虎歴の後ろだてには出身地である"楚"がついていると推測。
虎歴は、毐国の暴走により秦国が乱れることを期待する楚王の手先としてに毐国に潜り込んでいたのだと悟る。
決断を迫る虎歴は太后に対し、取る道は2つに1つだと示した。
1つ目は、"挙兵からの咸陽急襲"。
魏国攻略や楚軍侵攻防衛のために多くの兵は出払っており、中央が手薄となっている今は絶好の好機であると説明する。
そして2つ目は、"太后と嫪毐、隠し子2人の首をはねて咸陽へ届け、許しを乞う道"。
毐国が落ちれば9族にわたりさらし首になるであろう罪深き反逆罪、
提案した2つに1つの道しか生き残る術はない、
と虎歴は太后に再度決断を迫る。
太后は、挙兵を選択。
旧王都・雍(よう)で政の"加冠の儀"が行われる日、咸陽の主要人物が雍に入り、咸陽を留守にする好機を狙い、急襲を決行すると宣言した。
◆
翌月、政の"加冠の儀"が執り行われる日がやってきた。
式典には、秦国名家の面々だけでなく、敵国である六国の使節団も参列し、錚々たる顔ぶれが集う。
そして太后も式典に参列する。
政が宮内に姿を現した瞬間、
宮内の空気が明らかに変わったのを、
その場にいる全ての者が感じていた。
光をまとっているかのようにも見える、
威圧ではなく包み込むような政のたたずまいに、
誰もが息をのむ。
式典は滞りなく進み、
政は晴れて帯剣し、加冠を済ませ、
第31代秦国大王として承認される。
宮内は歓喜の渦となった。
その時、式典の最中に急報が入る。
毐国軍と思われる兵3万が、函谷関をすり抜け、北道より咸陽へ迫っているという。
毐国軍は、太后が過去に作った"偽の玉璽"を使い、函谷関をくぐり抜けていた。
太后は、式典に参列しながら内部の様子を見て、"隠し子"の存在が咸陽に漏れていないことに気づくと同時に、
己が呂不韋に踊らされていたのだということを悟る。
呂不韋は、毐国軍に咸陽を攻め落とさせ、
毐国軍に忍び込ませた配下達を使って咸陽を壊滅させることで、王族を一人残らず虐殺する算段であった。
秦王家の血を根絶やしにした後、
毐国反乱軍は自らが抱える蒙武軍に討たせることにより、王族が消えたあと国民が自分に国を託すように仕向ける計画だったのだ。
事が計画通りに進み、ほくそ笑む呂不韋。
そして呂不韋は、緊急事態が起こったため、"加冠の儀"は中止すると宣言する。
すると政は、呂不韋を御し、落ち着いた様子で式典の続行を宣言。
予想外の政の行動を訝しむ呂不韋だったが、
政は、
「反乱軍を止める軍はすでに向かってきている」
と告げるーーー。
* * *
ついに、ついに政が"加冠の儀"を迎えました‥‥!!
昌文君や壁じゃないけど、よくぞここまで‥‥!と感極まります。
表紙もインパクトありましたが、政の正装姿は本当に素晴らしく王の風格が溢れてました。
そんな政の母、太后様の胸の内。
これが38巻の主軸となります。
今までの太后様には、呂不韋に人生を狂わされた色情魔、ぐらいの印象しかありませんでしたが、
今巻では内情が丁寧に描かれ、
哀しくも切ない背景がみられました。
それにしても、第406話27ページ・"美姫"過去シーンの可憐な美少女ショットからの、28ページ・"毒婦太后"ショットは衝撃でしたね‥‥。
非道な仕打ちはここまで女の姿を変貌させるものなのか。
にもかかわらず、奈落の底に突き落とした張本人である呂不韋の
「儂は変わらずずっとそなたを愛している」
発言には、太后でなくとも
「どの口が‥‥!」なのですが、
後から読み返すと、呂不韋的にもひとつの覚悟を決めた表れの発言だったのかもしれません。
(初めはコレも呂不韋の何かしらの作戦か?と疑ったぐらいでしたが。)
さて、太后様話はちょっと置いといて。
ついに信が五千人将昇格しました!!
将軍まであと一歩。
騰は大将軍となり、王賁も五千人将になりました。
王賁の将軍昇格はあえて見送られたようでしたが、こういう"分かってる"上司の存在は有難いと思うなあ。
先にポストを与えられることで伸びるタイプもいるだろうけど、
🔴騰 : 「五千人将の目を通してこそ 将軍の存在がいかなるものか より見えてくる」
という大将軍からの言葉の重みに、こちとら納得せざるを得ません。
そしてさりげに羌瘣が三千人将に!
"新年のごあいさつ"シーン(第408話)で、
🔴羌瘣 : 「独立はない 私は最後まで飛信隊だ」
と断言したことにすごく安心しました。
羌瘣が「将軍になる」発言をした時から、いずれ飛信隊離脱もあり得るのかなーなどと心配していたので、
ここではっきり羌瘣が否定したことでホッとしました。
と同時に、信とのどうこうはともかく、羌瘣にとって自然に
"帰る場所=飛信隊"
になっていることがすごく嬉しかった。
まあ、隆国の指摘通り、五千人隊+三千人隊の飛信隊の将が五千人将、っていう矛盾は気にならなくもないけれど。
百人隊から始まった飛信隊。
将軍まで本当にあと一歩、短いようで長かった。
やっぱり、(途中一時離脱したとはいえ)生え抜きメンバーである羌瘣にはずっとここに居て欲しいのです。
あと、
🔴羌瘣 : 「許さん」
🔴信 : 「それ もういい」
こんなもはや夫婦漫才状態のふたりの掛け合い、コレもいつまでも見ていたい。笑
それから今回、今まで激シブの存在感だったはずの隆国が、まさかのネチネチキャラにキャラ変していたのは衝撃でした。
隆国のあのマイルドなシブキャラ、好きだったのに‥‥!
まあ、機転が利くということは、
総じて細かい性格のはずだということで‥‥
信を立派な将軍に導いていってほしいと願いますな。
さて、ここでまた太后様の話に戻ります。
まず太后の側近宦官・趙高ですが、あのハァハァキャラは一体‥‥?!
デキる男に間違いはないようですが、
なんかあやしい奴なのか?単純に太后の味方なのか?と疑ってはみたものの、
18巻で太后が政を後宮に呼び出すために送った白紙の書簡なんてものがありましたが、
その案はこの趙高の指示だったようだし、
(この時は黒ずくめで顔は唇しか見えませんでしたが)
それなりに長く太后に仕えていて頭も切れ、信頼を得ている存在のようではあります。
そして嫪毐は、元々呂不韋がしつこく求めてくる太后との体の関係を断つために、宦官を装い男娼として後宮に送りこまれた男でしたが、
太后様はたいそうお気に召したようで、嫪毐の体に溺れ、いつしか双子の子を出産。
知らぬ間にすごい事をやらかしたな‥‥と前巻では呆れましたが、
ただの色情魔だと思っていた太后の心の闇、流した涙。
ただの性奴隷だと思っていた嫪毐が見せる、太后への想い。
破滅の道を進む2人の間には、いつしか子どもを通して穏やかな絆のようなものが生まれていたんですね。
嫪毐は太后の"心を休めたい"という願いを叶えるために、
"毐王様"などと呼ばれ天狗になりかけて我を忘れていた自分を律し、
太后のために毐国を揺るがぬものにしようと決意。
‥‥なんの取り柄も持たなかった嫪毐が、いきなり凄まじい権力を手にした上で、金や名誉欲に狂わずに我を取り戻したことが、(太后への想いに対し)健気すぎて泣ける。
呂不韋は「あれが好いた男か?」と嫪毐を一瞥して、小馬鹿にしている風だったけど、
太后が言った「あーそうさ あんたの百倍やさしいよ」
との返しの言葉は強がりでも嘘でもなく、本当なんだな。(加えて、"あっち"もすごいことが重要なのでしょうけども。)
かつて呂不韋が"美姫"に近づいたのは、
そもそも後のシナリオを実現させるための品定めだったのか。
それとも、単純に"邯鄲の宝石"に心奪われ、恋に落ちた後に思いついたシナリオだったのか。
どちらにしても、"唯一心を奪われた女"に対し、9年もの間趙へ放置した非道すぎる行為は、普通の人間には出来ないでしょう。
完全に破滅しかない未来ですが、太后のために覚悟を決めて立ち上がる嫪毐の今後を、少しだけ祈りをこめて見守りたいです。
◆
そして38巻でハラハラさせられるのが心理戦。
誰と誰が通じていて、誰が誰を欺いているのか。
色々予想するだけでめちゃくちゃ面白いです。
コミックス派なので、あくまで想像の範囲ではありますが、相関図を頭の中で描いてみました。
まずは、太后が楚王との繋がりを推測していた虎歴。
咸陽に隠し子の存在がバレたと(おそらく)嘘をつき、咸陽攻めを扇動した張本人です。
80ページから、樊於期(はんおき)将軍と繋がっていることと、
168ページ最後のコマから、樊於期が呂不韋の手下であることは明らかなので、
呂不韋から此度のシナリオを実現させるために毐国に送り込まれた手先なのでしょう。
となると、
完璧に隠し通せていたはずの隠し子の件、
虎歴が頭の中で語っていた
🔴虎歴 : 「実は初めの雍にて出産した時に 一人の御仁にだけ知られてしまっていた あの御仁にな‥‥」
の"御仁"とは、呂不韋なのでしょうか。
もし呂不韋が太后の隠し子の件を知っていたとなると、前巻で朱凶を使って太后と嫪毐を探っていた呂氏四柱・李斯にも、知らせていなかったということで。
37巻ラストで、李斯が送りこんだ朱凶がムタみたいな奴に始末されていて、隠し子の件は闇に葬られていたけれど、
あのムタみたいな奴は、実は呂不韋側が雇っていたとか?
隠し子の件がバレたらそれこそ咸陽側が黙っていないだろうしそうなると今回の呂不韋の筋書きは実現しない。
もしそうなら、なにもかも知っていて泳がせて、
太后に向かっては
「どうかここで静かに余生を過ごせ」
とか言うなんて、この男、心底鬼だな!
と予想しながらも、、、
読み返してみると、なんか趙高の動きもあやしい気がするんですよね。。。
でも"御仁"と言うからには、その正体はそれなりの立場の人物に違いないだろうし。。。
最初は昌平君かなとも思ったけど、
今後の展開を考えると、"サイ"戦で掴んだ心を再び政から離す理由も見当たらないし。
とは言いつつも、貂を軍師学校に入れた時に
「今すぐどうこうはしないが、いい駒が手に入った」
とか昌平君が言ってたことも今さら気になりだしたり。(キリがないなー)
次巻は、そんな昌平君の動きに注目です。
貂へ届いた手紙、明らかにあやしい伝令係の孫築さんは、確実に中身を見ていますが、
貂は果たして孫築さんの嘘に騙されているのでしょうか?
加冠の儀の前に、昌平君が昌文君に目くばせ的なことをしていたのも気になる!
政陣営の味方なのか?やはり敵のままなのか?!
呂氏四柱であり、軍総司令でもある昌平君の出方は、おそらく次回の超重要ポイントになりそう。
利口な貂のこと、きっと何かに気づいているはず。
でないと最終ページの頼もしい信の後ろ姿には繋がりませんからね!
ワクワクしまくりの38巻でしたが、
次巻が気になりすぎる!
さらにトドメのおまけページ‥‥
信&羌瘣のハプニングの続きに、胸ドキせずにはいられない!
3ヶ月先を指折り数えながら、39巻へ続きます。
【メモ】
⭕キャラクター紹介ページイラスト、一部リニューアル。
⭕おまけマンガ「天幕(テント)」
羌瘣の前髪が短いけど、もしかして過去話?
現在は前髪伸ばしてますからねぇ。
(リニューアルした巻頭のキャラクター紹介ページでは、何故か新髪型バージョンではなく旧髪型のカットが使われていますが)
"対魏の前線地〜"とあるから、普通に現在の対魏守衛の前線と思っていたけど、
まさか以前の対魏・廉頗戦の時の時期設定?
でもそれじゃあ過去すぎるか。
どっちにしても‥‥萌え‥‥続きが気になる!
⭕カバー裏・表紙側:政の冠
カバー裏・裏表紙側:おまけマンガからの、信&羌瘣