キングダム 61巻
*ネタバレあり*
呉鳳明が冴えまくってサクサクと什虎城を獲りにかかるスピード展開からスタートする61巻。
前巻から何故か蒙武とお話ししたがりまくりの満羽が一騎討ちをけしかけてきますが、
満羽が蒙武にこだわるその理由とは?
それでは、あらすじから順に追っていきますね。
【あらすじ】
"主攻"と"助攻"に軍を分けるという呉鳳明の戦略で楚軍を突破していく秦・魏同盟軍。
しかし主攻の将である蒙武の前には什虎城主・楚軍総大将の満羽が立ちはだかり、一騎討ちを仕掛けられる。
満羽は蒙武の強さの背景にある"背負うもの"の正体に対して興味を持ち、かつて小国の大将軍でありながら国を失ってしまった自らの過去を重ね合わせていた。
前線の様子から満羽の異変を感じ取った寿胡王は全軍退却の銅鑼を鳴らすが、
満羽が蒙武との一騎討ちにこだわったことにより満羽軍は周辺へ足止めされていた。
そこへ秦軍第二の主攻の将・騰が猛然と楚軍の包囲を突破し、寿胡王率いる楚軍本陣を急襲する。
騰軍は瞬く間に楚軍本陣を陥落させることに成功し、あたり一帯に秦軍の勝ち鬨が広がった。
本陣陥落の報を受け、満羽たち楚軍各将たちは什虎城へ退却を始めるが、
なんと予め呉鳳明が放っていた別働隊によって既に什虎城は陥落していた。
城主である満羽は、城を取り返す意欲を見せること無く退却の進路を変更。
寿胡王を除く什虎の3将は、楚王都・郢(えい)へと向かうのだった。
"不落"と言われた什虎城陥落の報せは、秦軍本陣にとって驚くべき朗報であった。
呉鳳明の緻密な戦略に唸る蒙毅たちだったが、
呉鳳明は、此度の同盟の戦利品である什虎を南部一帯の拠点とし、秦との3年の同盟を結んでいる間に韓を削って西への領土拡大に出ると宣言。
そして蒙毅たちに、〔秦・魏・韓・楚〕四国境界の重要地である什虎を得た魏の大きな利に比べて秦側に利は無く、「同盟は大失敗」であると言い切る。
そして今後3年の間に秦が趙攻略に専念したとしても、秦はいずれ前線に戻ってくるであろう李牧に勝つことはできないと断言する。
そして自らが率いる魏が、李牧に敗北し弱りきった秦にとどめを刺す脅威となろうことを宣言するのであった。
◆
同盟の利として魏が什虎城を取った後、呉鳳明の計画通りに魏は韓へと侵攻を始めた。
秦は魏との3年の同盟を理由にこれを静観していた。
秦は、同盟の利として魏からの攻撃の憂いが無い3年の間に趙を攻略すべく全力を注ぎ始める。
王都・邯鄲の目前にある鄴一帯では、一進一退の攻防が続いていた。
そこでは新副長・愛閃の加入により攻撃力が増大した楽華軍と、
三千将・亜花錦の加入により戦力が増大した玉鳳軍が前線で活躍していた。
一方、信たち飛信隊は主力メンバーの不在により苦戦を強いられていた。
飛信隊の不調は、古参の去亥や歩兵団副長の松左を失ったことに加え、朱海平原で仮死状態だった信を禁術によって助けた羌瘣が本調子でないことが原因であった。
羌瘣が戦場に出ず天幕で休んでいた数日間の間に、飛信隊の周辺で妙な噂が出回る。
休息中の羌瘣の姿を戦場で見た者が多数いるのだという。
羌瘣だと噂されていた者の正体は、羌瘣 が故郷の村で共に育った妹分の羌礼(きょうれい)だった。
羌礼は、羌瘣を訪ねて飛信隊のもとへ現れる。
尾平や昂の危機を救った羌礼はそのまま見習いとして飛信隊に加入することになるが、
羌礼は隊の規律を守らず好き勝手に暴走。
各隊同士の作戦や連携を一切無視し、縦横無尽に敵兵を斬りまくる。
羌礼によって戦果を上げ続ける飛信隊だったが、作戦無視の身勝手な振る舞いにより隊の足並みが乱され、そのせいで甚大な損害を被る隊も多数出てきていた。
何より敵軍であっても投降兵を見境無く殺しまくる羌礼の異常な姿に対し、飛信隊の中では徐々に羌礼に対して反発する者が増えていく。
軍律違反を繰り返す羌礼を看過できなくなった歩兵長の崇原は、怒りを爆発させる。
崇原は羌礼に飛信隊から出て行くよう厳しく叱りつけるが、羌礼は聞く耳をもたない。
羌礼は、自分を追い出すのであれば隊を皆殺しにすると言い放ち剣を抜こうとするが、
そこに突然羌瘣が止めに現れる。
羌瘣は、故郷の村で再び"祭(サイ)"が行われ、羌礼が勝者となって生き残り現在の"蚩尤(しゆう)"となっていることに気づいていた。
そして、かつての羌瘣と羌象のように本当の姉妹のごとく育った羌識(きょうしき)をその手で殺めたのであろうこと、
また、羌礼は祭をくぐらず掟を破り村の外の世界で生きている羌瘣が許せないのだということを、
羌瘣は察していた。
自分は羌瘣を殺しに来たのだと息巻く羌礼だったが、羌瘣と組み合った際に羌瘣の体内の気道がズタズタに断裂していることに気づく。
その原因が信のために禁術を使ったことだということを知り、代償として自らの寿命を縮めてしまうことになった羌瘣を嘲る羌礼だったが、
羌瘣の体の回復を待った上で3日後に再び殺しに来ると宣言して去っていく。
そして3日が過ぎた。
羌瘣と羌礼は、改めて対峙する。
容赦なく剣を抜く羌礼。
羌礼は、正々堂々と真面目に祭に挑んだ自分たちに対して、祭をくぐらずに掟を破って外で生きている羌瘣に対する怒りがおさまらない。
自分よりも生き残るべき才能と実力があったと認める羌識への想いが溢れる羌礼は、
羌瘣と打ち合いながら、祭で起こったことを話し始める。
羌礼と羌識は"祭"の殺し合いの中で、
最後まで生き残った2人だった。
同族であっても最後の1人になるまで殺し合わなければならない"掟"に従い、
2人は全力で打ち合う。
呼吸も尽きかけ、互いに剣を向け合った最後の瞬間、羌識は剣を直前で止め、羌礼の剣は羌識の心臓を貫くーーー。
* * * * *
61巻、前半は什虎攻めの決着です。
途中で満羽過去編が差し込まれたのでもうちょっと長引くかと思いましたが、騰が最短でキッチリ決めてくれましたね。
異常に蒙武に執着しまくっていた満羽は、意味深な言葉を残して去っていきました。
その満羽の過去とは、
自分は国のため・国民のためにと命を賭して戦っていたのに、楚に降伏したい国王と意見が合わず自分が遠征中で城にいない間に王が国を手放してしまい、帰る場所を失ったというもの。
そして最も大きな傷となっているのが、その後何十日間も戦場で彷徨い続けた中で殲滅した楚の兵たちの亡骸の中に、多数の元汨国民たちを見つけてしまったこと。
満羽としては、
(他国の例から)楚に降伏した場合、財力のない約半数の平民たちはきっと奴隷にされてしまうだろうと危惧して今まで民のために戦ってきた訳ですが、
いつの間にかその民たちにとって自分は"敵"
となっていたのだという哀しすぎる事実を目の当たりにしてしまったのです。
満羽が国のために懸命に戦っていることを敬っていた青年・青多(せいた)の死体もそこにあり、
戦争の残酷さが胸に刺さりますね‥‥。
寿胡王曰く、それ以降満羽は変わってしまったそうで。
ここの解釈なのですが、私個人としては
"守ってきたはずの民を自分が殺してしまっていた"という衝撃からうまれた満羽の絶望が描かれたのだと思っていました。
しかし満羽の蒙武への発言(背負ってきたものに裏切られる云々)と
「気付かぬうちに汨国の民だった者たちの敵となっており そしてそれを殲滅していた」
という表記から、
"守ってきたはずの民たちから裏切られた"
と満羽が受け取っていると解釈するのが正しいのでしょうか。
そうだとするならば、
おそらくさまざまな選択権のない元汨国民たちに対して
"裏切られた"ととって良いのか私には少し疑問が残りますが、
語り部役の寿胡王的には
🔴「大衆の心を騙し操るのは決して難しいことではない」
と言っているので、楚側が満羽たちと戦うように仕向けたことだったのだろうと思います。
昔からの仇敵である"暦国"(千斗雲の祖国)と手を組んででも楚に降伏したくなかった満羽が、
暦国と手を組むぐらいなら楚に降伏したほうがマシだという意志を通した汨国王を恨むのはわかりますが、
民に裏切られたと思うのは少し違うような‥‥。
尽くしてくれた満羽を騙すようなやり方はともかくとして、
私欲や保身で国を手放したのでなければ、王とて苦渋の決断だったのかもしれず、どちらが正しかったのかはわからないなと思いました。
少し話を切り替えます。
前巻からポッと出てきた(スミマセン)満羽ですが、やたらと蒙武に対して異様なこだわりを見せるのが意味深すぎですよね?!
そう、蒙武の
"背負うもの"
に対してです!!
読んでいても見過ごせない程、ここにやたらとこだわる満羽。
🔴「生きている者の何かを背負っているとしたら
お前は一つだけ覚悟をしておかねばならぬ
それに裏切られることがあるやも知れぬということを」
と蒙武にアドバイス。
そして
🔴「次に会う日まで 背負っているものを失くしていないことを願うぞ 蒙武」
とまで!
異様なまでにそこに執着している満羽の様子と、
"蒙武の背負うもの脳内イメージ=昌平君"
の絵面を見せられたら、、、
"昌平君 今後裏切りフラグ"
めちゃくちゃ立ってますやん!!!!!
ポッと出てきたキャラ(すみません)にしては満羽生き延びてるし、蒙武は今のところ満羽に押されぎみだったし、今後の再戦もアリってことか‥‥。
昌平君は、確か楚の出身でしたよね。
10巻で呂氏四柱として初登場した際には、
蔡沢老師に「蒙武より強い」的なことを言われていましたし、
13巻の蒙毅の発言の中で
「この戦国時代では高度な知略を起こし実践できる武将が中華最強のはず(本来ならわが昌平君先生が!!)」
的なものもありました。(今思えば李牧登場の前フリですが)
例の読み切りにきっと史実が描かれているのでしょうが(毎回しつこい笑)、本編で明らかになっていない以上は想像の域を出ないのがもどかしいところ。
今回"背負うもの"にやたらと重きを置いていたことから、ここでうまれた疑問はいつか回収されることになるのでしょうね。
寿胡王的には、満羽は自分と似ている(重ね合わせている)蒙武の行く末を案じているのではないかと推察しているのかもしれません。
話を戻します。
満羽は呉鳳明の別働隊にあっさり什虎城を落とされ、退場していきました。楚の王都へ向かったようでしたが、
満羽の動きに媧燐が反応していたようなので、いずれ王都での合流が見られそうです。
満羽は、信× 凱孟の時のような、
"メインキャラの内面を探るために出てくる新キャラ"的な位置付けなのかもしれないですね。
さてさて後半は、飛信隊に羌礼がやってきました。
羌瘣 の里の村で共に育った羌礼は、単行本派にはおまけマンガでおなじみのキャラですが、
今回飛信隊に嵐を巻き起こしましたねー!
56巻(のおまけマンガ)で、里のバァたちに幽連の死がばれ、次の祭が行われることになっていました。
その後祭は予定通りに行われ、勝ち残ったのが礼だったということですが、
礼にとっては辛い展開に。
幽連の時もそうでしたが、同族同士が最後まで残って殺し合うというのが最も地獄な展開であり、幽連も礼もその地獄をくぐってきてしまった。
56巻の時点では識の方が覚悟ができていて、
礼の方は覚悟がまだできていないと描かれていました。
そんな礼を心配していた識は、今回のように礼に釘をさすような発言(自分は絶対に死にたくないし祭では躊躇なく礼の首を飛ばすからそのつもりでいろといった内容のこと)をしたのでしょうね。
礼からすれば、識の方が実力が上だと思っているようでしたが、
礼は象姉の愛剣"白鳳"を引き継いでいます。
15巻(のおまけマンガ)では、礼本人曰く
「一族で最も有力な蚩尤候補が白鳳を持つのは当然」
とのことでしたので、この時点での羌族の最有力蚩尤候補は礼だったのではないでしょうか。
(余談ですが、もし羌瘣 が祭に出ていて命を落としていたら、緑穂が引き継がれていたのかもしれませんね‥‥。)
礼の登場で、信は羌瘣が禁術を使って自分の寿命を縮めるという危険を冒してまで助けてくれたことを知りました。
信が、なかなか体調が回復しない羌瘣を「様子見」とか言って天幕まで行って手を握ってたシーンにはちょっと萌えましたが、
羌瘣に何をされたかを知ってめちゃ目が怒ってましたね。
羌瘣の
「ちゃんと話せば分かるから」
って笑うところにキュンとしました。
羌瘣は、自分のために寿命を縮めるだなんて信は怒るに決まってるってことを理解しているし、何故そうしたのかそれを説明して信に分かってもらおうとしている。
そんな羌瘣がすごくいじらしい。
さて羌瘣と礼の対決ですが、幽連のように闇堕ちしかけている礼を救けるために、病み上がりの羌瘣は頑張りますよ!
62巻に続きます。
【メモ】
⭕️什虎攻め:紀元前235年
⭕️ かつて楚に囲まれた小国があった。
"汨(べき)"出身=満羽
"暦 (れき)"出身=千斗雲
玄右・寿胡王も似たような国の生き残りだそう。
⭕️羌瘣 が幽連を討ったのは6年前。
⭕️羌礼の剣は"白鳳"
⭕️おまけマンガ「噂になってる二人」
弓使いのお話。楚の白麗は中華の十弓ランキングをめちゃくちゃ意識しているらしい。