【感想】映画「KINGDOM」(後編)
*ネタバレあり*
3.「王宮での決戦〜王都奪還へ」
■概要と解説■
3000ほどの山の民たちを引き連れ、
ついに咸陽へ到着した政たち一行。
政には、王宮へもぐり込むための作戦がありました。
王弟一派は8万の軍勢を準備しているものの、呂不韋の持つ20万の軍勢にはまだまだ劣っていることから、
呂不韋が遠征に出ている今のうちに他勢力をかき集めておきたいはずだと読んでいました。
山の民が制している西の山界は広大であり、味方につけておけばかなりの戦力になります。
そのあたりの諸事情をうまく利用し、
山の民側から秦との同盟を復活させたいと申し出ることで交渉を図る‥‥
という体で王宮内に侵入しようと、政は考えていました。
姿はまだ出てきませんが、
現在遠征中の呂不韋、政の庇護者なのは表向きの顔なだけ。
王弟の反乱という国の一大事に遠征から戻って来ないのも、政が殺された頃にシレッと咸陽に戻って己が成蟜 を潰し、自分こそが王になろうと目論んでいるからにほかなりません。
王弟一派はその時のための対抗勢力として、今のうちに手札を増やしておきたいという焦りがあります。そこを利用しようという訳ですね。
とはいえ、長年親交を絶っていた山の民からの突然の同盟の申し出に対し、
王弟一派の竭氏や肆氏たちは当然警戒しますが、
そこは楊端和が上手いこと言ってくれて武器の帯同を認めさせ、50人のみ選抜された一行は
"朱亀の門"
をくぐることに成功します。
門をくぐった瞬間に政が王弟一派の兵を斬り、戦いの火蓋を切ります。
政は仮面を外して己の正体を明かし、一気に戦闘へ!
ここで政たちは2隊に分かれ、
信、壁、バジオウ、タジフたちは
王宮の内部へ通じる地下の隠し通路から本殿へ向かい、成蟜 を仕留める役割を担います。
政や昌文君、楊端和たちは残って囮となり、
信たちが成蟜 を仕留めて戻ってくるまで正面から進み、耐えしのぐという作戦。
王宮から離れた駐屯地にいる8万の軍勢を呼ばれる前に、信たちが成蟜 を討つことができれば勝ち、ということですね。
さて、信たちが隠し通路(原作だと"右龍の回廊")を進んで行くと、途中で元将軍・左慈が待ち構えており、ここで激しい戦闘となります。
バジオウ、タジフらが奮闘するも、謎の巨大珍猿・ランカイが無茶苦茶な戦闘力で場を荒らしますが、
バジオウの劣勢に奮起した信がランカイに挑み、ランカイを倒します(わりとあっさり)。
信たちはそのまま突き進み、成蟜 のもとまでたどり着きますが、
いつの間にかこちらに来ていた左慈が現れ、信の前に立ちはだかります。
左慈は元将軍。列国に名を轟かせていたものの虐殺が酷すぎて追放され、
今や"雇われの人斬り"となり下がってしまったもよう(壁:談)。
原作では、"上級武官"、"肆氏の片腕の人斬り長"とされていたので、設定が変更になっています。
映画のパンフレットによると、このシーンのラスボスを原作と同じランカイではなく左慈にしたのは、原先生の考えだそうです。
"夢"という言葉を軸に展開される"言葉の戦い"を見せたくて、原先生はかなり悩まれたそう。
確かに、もしラスボスがランカイだったら、言語が話せないのでただの単調な戦闘シーンになりそうだし、
ランカイのビジュアルもマンガみが払拭しづらいので、映画としてのクライマックス感は弱かったかもしれません。
映画を愛する原先生のことですから、見せたいシーンや伝えたい想いを最大限効果的に表現できる方法を探して悩み抜き、練り出した設定なのだろうと思います。
左慈はバジオウ・タジフをこともなげに蹴散らし、信との一騎討ちに。
実質的に、このシーンが全体を通しての1番の見せ場です!!
信は左慈を「クソヤロー」と呼び向かって行きますが、初めは歯が立たず左慈の剣にはじき飛ばされてしまいます。
「どうした?将軍になるんだろ?」
と信を挑発する左慈。
途中、信がやられているのを高みの見物で
「ウホッ♪」
と膝を打ちながら喜んでいる成蟜 がちょいちょい差し込まれてくるのですが、
これが毎回絶妙に小憎たらしい!
本郷奏多は天才です。笑
なんだかんだで信と左慈は激しい打ち合いに。
「夢見てんじゃねェよ ガキが
夢なんてクソだ
そういう奴らをいっぱい見てきた
戦場に夢なんて転がってねェんだよ
夢だなんて言ってる奴こそくだらねェ死に方す
んだよ」
と信へ吐き捨てる左慈。
ここで信の脳裏に漂の顔が浮かびます。
その漂の笑顔がすごく綺麗で、何だか泣きそうになりました。
「違うよな
違うよな 漂」
とつぶやきながら、天下の大将軍になるという夢を語り合った漂との日々を思い出す信。
「夢を見て何が悪い
夢があるから立ち上がれるんだろうが
夢があるから前に進める
夢があるから強くなれるんだろうが
夢があるから‥‥」
信は漂との誓いを胸に高く跳び、ついに左慈を討ち取ります。
残された成蟜 は竭氏に自分を守るように命令しますが、竭氏軍団は逃げ惑うばかり。
脱出を図った竭氏の目に貂が放った吹き矢が命中し、
とどめをバジオウに刺されて竭氏は絶命するのでした。
◆
一方、地上では政たちの前に魏興(=宇梶剛士さん)が立ちはだかり、激しい乱戦となっていました。
そこへ信たちに敗れて逃げてきた成蟜 が現れ、魏興は王弟一派の敗北を悟ります。
ほどなくして信たちも到着し、政たちと合流。
哀れなことに‥‥政を殺せと叫ぶ成蟜 に従う者は、もう誰もいませんでした。
「元々俺とお前の兄弟ゲンカだ ケリをつけよう」
と政は言い、成蟜 をボコボコに痛めつけるのですが、命をとることまではしませんでした。
政は、ここで此度の反乱における決着を着けます。
その時突然、門の方から王騎軍が現れ、
王騎が政の前へ立ち塞がります。
政と話をしに来たと言う王騎に対し、
政はまず自分の方から問いかけます。
かつて天下に名を轟かせた大将軍である王騎が
なぜ此度の内乱に首を突っ込んできたのか?
との政の問いに対し、
王騎はくだらないからだ、と答えます。
戦とは国内でするものではなく、中華でするものだと語る王騎。
次に、王騎が政に問います。
これから玉座を取り戻した先、一体どうしたいのかを聞かせて欲しい。
政の"夢"の話を聞かせて欲しい、と。
どのような王をこの先目指しているのかを、じっくり考えて答えて欲しい。
と王騎は求めます。
原作では、王騎が内乱に首を突っ込んできた理由はハッキリ本人から明言されていませんでしたので、
「内乱なんかくだらないからだ」
と王騎が答えたところは(2作目を見据えて)分かりやすくてとても良かったと思いました。
そして前述の信×左慈の一戦の際と同様に、
ラストの重要な政×王騎のシーンもまた、
"夢"という言葉が軸になっています。
王騎の問いに対し、迷いなく
「俺が目指すのは中華の唯一王だ」
と答える政。
「歴史に暴君として名を刻みますぞ」
と返す王騎に対し、
あと500年続くかも知れない争乱の犠牲をなくすために自分は中華を統一する最初の王となるのだ、と政は堂々と語ります。
その返事を聞き、天を仰ぐ王騎。
「ンフゥ」
と笑みを浮かべ、王騎は満足したかのような、
色々想いを巡らせているかのような表情を見せます。
そして戦の終結をはかり、騰に魏興へ投降するように命じさせますが、魏興はその命に逆らいます。
側で政と王騎の会話を聞いていた魏興は憤り、
「誰がお前の戯言についていくというのだ!」
と叫んで政の首を狙いますが、
向かってくる魏興を信が斬り、それを防ぎます。
信が、
「俺が、ついていく」
と言ったシーンはカッコよかった!
それを聞いた王騎が
「ンフ」
と笑ったところもなんかよかった!笑
「童(わらべ)信 次は本物の戦場で会いましょう」
とだけ信に告げ、騰と共に去っていく王騎。
最後に信が
「この戦 俺たちの勝ちだ!」
と言って剣を突き上げ、
王宮で起こった反乱は終結するのでした。
此度の反乱における王騎の行動の背景を昌文君と壁が語るエピローグが少しあった後、
王宮で政・信・貂の3人が勝利を喜び合うシーンの後、エンドロールとなりました。
■ここまでの感想■
山の民に合わせてつくった信たちの手づくり仮面は、けっこう原作に忠実な仕上がりでした。笑
朱亀の門をくぐればそこから先は戦場となりますが、
原作にあった
"開戦前の緊張感で貂が息苦しくなるシーン"
が削られていました。
いざ敵地に乗り込もうとしている間際の緊迫感をうまく貂が表現しているという、原先生がお気に入りのシーンなのにー!
‥‥と残念に思っていたのですが、このあとすぐの左慈軍団との乱戦シーンで、
貂が敵にアワアワしたり足を踏み外してコロコロ転がったり、
がむしゃらに放った吹き矢が敵に命中したりするという見せ場的なものがあったので、
より見ている方に分かりやすくするためにこっちに差し替えられたのかな、と思いました。
左慈は信たちをザコとみなし、この場を部下たちに任せて一旦立ち去るのですが、
ここで
"処刑人・ランカイ"
とカッコよく異名がついたランカイが登場しました。
映画ではラスボスが左慈だったので、案外アッサリと信はランカイを倒しましたね。
このあたりで、"政が自ら山の民に扮して乗り込んできた"という情報を耳にした成蟜 が
「自ら首を差し出しに来よったわ
ブァカが!!!」
と嘲笑うシーンが差し込まれるのですが、
本当に絶妙に小憎たらしく、本郷奏多はまじ天才だと思いました。笑
そしてメインとなる信と左慈とのシーンは、
原先生がこだわられた
"言葉と言葉の戦い"。
信の芯にあるもの、
根っこのところにあるものが
漂と共に抱いた"夢"である、ということがはっきり伝わるよいシーンだったと思います。
信の芯‥‥イコール「キングダム」の芯ですから、
原先生がこのシーンを大切にしたかった気持ちがすごく分かります。
音楽の相乗効果もあり、信とともに漂を想い、
観ていてホロリとしましたよ‥‥。
ラストの王騎と政のシーンも、原作では分かりにくかった王騎の意図がとても分かりやすくなっていて、そこはとても良かったと思いました。
王騎は
"血沸き 肉躍る世界"
を求め、
政がそれを創るに値する王であるのか、
政という若王がどのような考えを持っているのかに興味があって、
試したようなところがあったのですよね。
ラストの政と王騎の問答で、少し触れられています。
あと、
戦いが終わった後、楊端和から投げられた鞘に
信が剣を納めてタイトルがバン!!
って出るシーンはめちゃめちゃかっこよかったです!!!
このままエンドロールでも全然よかったのにと思ったのですが、
ラストに少しエピローグ部分がありました。
この内戦のあと、民に被害がなかったのは王騎が周辺を包囲して民を守っていたからだということ、
偽物の昌文君の首を成蟜 に差し出して領地を奪ってくれたおかげで、昌文君の家族や臣下に被害が及ぶこともなかったとの補足説明が昌文君から語られます。
ここは原作でも少し分かりにくかった部分で、
わたしも自分が理解するために別記事としてまとめたことがあるのですが(※過去記事をご参照ください)、
この説明が入ることで王騎の人物像が少しイメージしやすくなりますし、王騎が介入してきた意味もより理解しやすくなっていました。
そして昌文君が最後に
「全ては王騎の‥‥盤上の駒」
と語ったことで、さらによりわかりやすい状況説明となっていましたね。
‥‥この一言は、完全に2作目ありきの流れだと思いました!
原先生が初めに映画化の話を受けた際、どこまでのパートをやるのかと気になって、王騎の死まで撮りたいとか言われそうだな‥‥とご自分なりに色々想像されていたそうなのですが、
プロデューサーの方から"5巻の王都奪還までで"との答えを聞いた時に、驚きながらも原先生は英断だと感じ、とても嬉しく思われたそうです(※コミックス53巻のあとがきより)。
1作目をじっくりやって必ずヒットさせて、
絶対2作目やりましょう!っていう監督の熱意、
わたしもすごく感じることができました。
映画は見事にヒットして、本当に本当に嬉しく思います。
これはきっと2作目ありますね!
ラストシーンは、
王宮で政・信・貂の3人衆が揃い、
中華統一への夢を誓って、エンドロールとなりました。
いまはコロナ禍の状況下ということもあり、当面は新しい情報も出ないかと思いますが、
いつの日か2作目の情報が発表される時を楽しみに待ちたいと思います。
その時は新キャストの発表などもあり、
わたしはきっとまた性懲りも無く観るのをあれこれと悩むのかもしれませんが。笑
映画、面白かったです!
未見の方はぜひ。
【メモ】
⭕️壁のあんちゃんは全体的に存在感が薄かったように思います。
原作では、信たちとの絡みが多く、序盤の功労賞をあげたいぐらいの活躍を見せたあんちゃんでしたが、
映画では尺の関係もあってか、端和様に一目惚れするシーンなども無くあまり焦点が当たっていませんでした。
続編無しと仮定した時に、独立した一本の映画とするためには、作る方としても泣く泣く削らざるを得ないエピソードたちがほかにもたくさんあったのでしょうね。
⭕️パンフレットのクレジットを見たら、"里典の子"の記載がちゃんとありました。
有が登場した記憶が無かったので、
あれ?見過ごしたかな?と思って見直してみたのですが、
昌文君が漂を身請けに来た時にひれ伏していた里典の家族(顔も見えなかったような‥‥)の中にいたのかもしれません。
クレジット、細か!と思ったけど、
もしかしたらカットされたシーンがあったのかも‥‥。
⭕️追記(2020.5.29)
本日地上波初放送日ですが、朝の情報番組「スッキリ」にてPART2の制作決定が発表されました。
ちなみに本日の天の声ゴールド担当は熱烈キングダムファン・ケンコバ氏でしたが、原作(本誌)の進捗状況を少し語られていて、不意打ちに聞いてしまったコミックス派のわたしはギャー!!となって耳を塞いでしまいました。笑
(がしかし‥‥楽しみ‥‥!コミックス収録は2巻先ぐらいかな?)