【まとめ】王騎の思い (後編)
*ネタバレあり*
【まとめ】の前編では、王騎が前線に戻るまでの
動きを追いましたが、
後編では、
〈前線復帰手前〜復帰初戦となる「馬陽」の戦い〜死〉
までを追いたいと思います。
ここからは、信(と読者)へ戦のHOW TOを教えてくれる先生のような役割を果たしてくれてますね。
前線に復帰するにあたり、
9年にわたる龐煖との因縁とは別にして、
「後進の育成」
が王騎の内心のテーマだったのかなぁ、
と感じます。
◆
【対魏・蛇甘平原の戦い〜信との出会い】
●7巻(第65〜69話、71,73話
ほぼ7巻は丸々関わってきます。)
丘の上から戦局を見守る王騎。
秦軍に不利な状況の時、突然現れピンチを救うが、
あくまで王騎側は"参戦"した訳では無く、
"この丘に来たかっただけ(途中邪魔なものは排除したけど)"
の体(てい)。
信を見て、
🔴王騎 : 「オヤァ?
昌文君が言っていた童とはひょっとして
あなたのことですかァ?
名前はたしかァ 信!」
🔴信 : 「! ‥‥あんた 昌文君のおっさんの仲間か?」
🔴王騎 : 「仲間というかァ ンフフフ
愛人です!」
‥‥という冗談まで飛び出し、信、やや怯む。笑
武将の中の永遠のテーマであるという、
"本能" 対 "知略"。
この戦で、
●秦国総大将・麃公将軍(本能型)
●魏国総大将・呉慶将軍(知略型)
どちらが是でどちらが非か、
賭けてみないかと信を誘う。
「戦は武将しだい」
と話す王騎と語らううちに、信は"大将軍になる"という夢の姿を少し現実に捉えることができるようになった。
🔴信 : 「(天下の大将軍
誰もが知ってる強ェ英雄ーーー
何となくそんな事しか分からずに
いつも吠えてた
だけど今は少しだけ姿が見えるようになった
この大男の言葉で
王騎‥‥将軍‥‥
そうか‥‥俺はさっきから
"将軍"と話をしてたのか)」
王騎は秦軍に表立っては力を貸さず、存在で魏軍に牽制を与えつつ、戦局を見守る。
🔴王騎 : 「それに見せて頂きたいではないですか 新興勢力 の実力を
昌文君を筆頭とした大王直属の一派
今まで呂竭の二派しかなかった秦国に生まれた新しい力
その大きさは呂氏と比べれば赤子と大人ほどのひらきがありますが
秦王が実権をとるには昌文君一派が強大になることが必須!
そして今 武の方面で先頭に立つべきは
副官 壁
彼もそろそろ力を示さねば"先"はないですよォ?」
【信の修業】
●10巻(105〜107話 )
1人で素振りしたり力仕事したりだけでは
補えるものではない"強さ"の教えを乞いに来た信に、
王騎は無国籍地帯にある100人ほどの村の平定を課し、
平定ができたら、修業をつけてやるという約束をする。
【対趙国戦・総大将任命〜政との語らい】
●11巻(110話〜112話)
昌文君・昌平君の意見により、対趙戦の総大将は「攻」と「守」を兼ね備えた王騎が適任であると
され、王騎もそれを引き受ける。
王騎は総大将を引き受けるに際し、政に昭王からの伝言を伝えたいと申し出る。
(それは前秦王にも話していなかった、"中華を目指す王たるもの"の指針となる教えであり、
王騎が政と共に中華を目指すという決意をしたことの現れだった。)
【昌文君との語らい〜出陣】
●11巻(113話)
出陣の前夜。
なぜ総大将を受ける気になったのかと尋ねる昌文君の質問に、王騎ははっきり答えない。
かつて王騎と昌文君、そして摎の3人で趙から奪った城、「馬陽」。
馬陽の戦を振り返る2人だが、
龐煖は死んだと思い込んでいる昌文君に
王騎は意味深な沈黙。
そして
「昭王六将としての自分とは決別しようかと考えている」
と宣言する王騎。
(この時、すでに李牧によって王騎の耳に"趙の総大将は龐煖である"という情報が流れてきているはずだが、王騎は特にそれを昌文君にも話さない。)
〈ここまでの感想〉
政が"中華統一"を目指す志を持つ王であると理解して以後、
王騎は前線に出て(参戦こそしていませんが)自らの闘志を高めていっている感じがします。
秦国でも随一の"本能型"であり、爆発的な破壊力を誇る麃公将軍と、
中華で名を馳せる"戦国四君"の1人の食客頭だったという切れ者"知略型"呉慶将軍。
呉慶将軍が、知略のみにとどまらぬ情念の戦いを見せたことにより、単純に"本能VS知略"だけの戦にならなかったところが興味深く、
その戦いを見届けたあとの王騎の表情が何とも言えません。(172ページ)
王騎自身の戦への思いが触発され、メラメラと前線への熱い思いがたぎってきたようにも思えます。
信にも
"将軍とは何たるや"
をさりげにレクチャー。
この出会いが将軍を目指す信にとって、
大きな分岐点となりますね。
そしてついに前線復帰を決め、
対趙戦での総大将を引き受けますが、
この時龐煖が総大将であるという情報を入手しているはずなのに、誰にも話しません。
李牧が王騎のみにあえて流した真実の情報ですが、
王騎にとっては、その目で見るまでは
龐煖の名を出すこと自体が覚悟がいることだったのかなぁ。
生きていること自体許せなかったでしょうし。
"昭王六将卒業宣言"も今読み返すとすごく感慨深い!
実際は、政に"昭王の伝言"を伝え、
「共に中華を目指しましょう」
と誓った後(16巻回想シーンで出てきます)での昌文君との会話です。
昭王とはまた違った輝きを持つ王・政に、
仕えるべき価値を見いだし、
麃公と呉慶の戦を見て
前線への熱い思いを再び燃えたぎらせ、
このタイミングで仕掛けてこられた戦の総大将が
殺したはずの宿敵・龐煖。
ここで9年前のしがらみに全て決着をつけ、
新しい気持ちで政とともに中華統一を目指すつもりだったんだなぁ‥‥
と思うと、
本当に王騎の死が惜しまれます。
◆
【対趙戦〜"飛信隊"命名〜蒙武開花】
●12巻〜13巻
いよいよ開戦。
王騎は信の百人隊を"飛信隊"と命名し、
趙の大将首の1人"馮忌(ふうき)"の首を獲るよう任命。信は見事任務を成し遂げる。
そして戦場では蒙武の快進撃が続く。
王騎は蒙武の戦い方を見、
圧倒的な破壊力を有した完全な"武"の将ではあるが、
勢いだけでなく"軍に対する理解"も深い、
と知る。
しかし、
🔴騰 : 「ここに来て新しく"主攻"をはれる軍が出てきたことは喜ばしいと思います」
と言う騰に対し、
🔴王騎 : 「‥‥‥まァそう言い切るのは時期尚早でしょう
今日がたまたまということもありますからねぇ
蒙武の力を評価するにはさらにもう一、二個様子を見てからです(‥‥‥‥)」
と返す王騎(13巻133話 65ページ)。
(呂氏が手元に置きたがって前線に出た回数が少ないことが惜しいが、
同じ呂氏四柱であり軍総司令官でもある昌平君と共に成長してきただけあって)
ただの武力だけの武将ではないと認めつつも、
何やら思うところがあるようで
蒙武の評価には慎重な様子。
しかし翌日は全軍を蒙武に預け、趙本陣を攻め落とすように指示。一気に勝負にかかる。
【王騎、李牧の仕掛けた策に違和感】
●13巻(136話 127,128ページ)
趙荘以外の軍師の存在をうっすら疑う。
【王騎、龐煖と対決】
●15巻(160話)〜16巻(170話)
"どこかに伏した援軍がいること"を予測していた王騎。
援軍がいるとしても到着までに決着をつける自信がある王騎は、戦のスピードを早め、
ついに龐煖と一騎打ちに。
9年前の摎の死を思い起こし、様々な想いと憎悪とで極限の力を引き出す王騎に、
武力で勝るはずの龐煖は押され、戸惑う。
激しい討ち合いを続け、王騎が優勢な戦況で
いよいよとどめをという時に、四万もの李牧軍が到着してしまう。
そして王騎は、背から放たれた矢により一瞬の隙をつくり、龐煖に胸を貫かれてしまう。
【決死の脱出と、王騎の死】
●16巻(第170〜172話)
王騎は信に胸を預け、配下達に護られながら脱出を図る中、
蒙武が退路を作り出し、趙軍の追撃を免れることができた。
最期の刻。
王騎は軍を騰に託し、
蒙武に課題を自覚するように諭し、
信に矛を授けた。
そして、
戦に生きることができた己の人生を振り返り、
後進の頼もしい成長に立ち会うことができたことにより、
思い残すことなく生涯を終えるのだった。
〈ここまでの感想〉
今回の戦で、王騎は蒙武や信に多大なる影響を与えました。
特に蒙武。
己の力を過信して李牧の策にみすみすと嵌り、結果的には軍を死地に追いやってしまいます。
(蒙武のせいでというよりは、李牧の策がいちいち一枚も二枚も上手だった訳ではあるのですが。)
初めは王騎軍に対しても不遜な態度をとっていて腹が立ちましたが(笑)、
最後は蒙武のおかげで退路を確保でき、
王騎を趙軍に渡さずに逃がすことができました。
王騎の最期には、素直に詫びています。
王騎が蒙武の戦を見て感じ取った不安要素には、
蒙武本人が自ら気づき、反省しているようで、
今後の蒙武の活躍には期待できそうですね。
自らの失態で招いた王騎という大物の死。
蒙武が一皮むけなければならない時にきているということを、
王騎は己の死で蒙武に悟らせることになります。
そして信には
"将軍とは""戦とは"
を具体的に示して教えてくれた、初めての人となりました。
王騎の死線での戦いや、
王騎の死を見届ける瞬間など、
王騎を見る信の目が涙で溢れてぐちゃぐちゃで、
何度も胸が詰まりました。
もっと長く信の近くで成長を見守って欲しかったと思わずにはいられません。
「我 正に 死線にあり」
から死の瞬間まで、
本当にゾクゾクしっ放しで
体が震えました。
(落石の計時の蒙武と魏加の矢にはやっぱ腹立つけど!)
龐煖のトドメについては悔やまれるけれど、
ラストシーン直前の
「摎も笑っています」
には救われます。
王騎はすべての思いを昇華させて、
本当に思い残すことなく逝ったのだな。
そう思わせてくれる、
本当に素晴らしい最期でした。
◆
【まとめの、まとめ】
⭕王騎、昭王亡き後約7年、呂竭の権力争いには興味を示さず前線から退く。
⭕王騎、昔なじみの戦友・昌文君が文官に転じ、若王・嬴政に仕え、呂竭の争いから必死で護ろうとしていることに興味を抱く。
⭕王弟反乱勃発時には、竭氏側の協力をするという体で、脱出を試みる昌文君を攻撃。
昌文君との戦を楽しむようにもみえる。
⭕替え玉である漂は死に、政は生き延びるが、
王騎は竭氏に偽物の昌文君の首を差し出して
政陣営の嘘の敗北を示唆。昌文君の領土にも手出しできないように自らの領土にする。
⭕王騎、山民族を率いて王宮に帰還した政陣営に、本格的に注目。
竭氏配下の逃亡を防ぐよう、騰に指示を出し援護のような行動をとる。
⭕王騎、王弟反乱を鎮圧した政に、
「どのような王を目指すのか」と確認。
「中華統一をする唯一王」だと言い切る政の目に、昭王以来の輝きを感じる。
⭕王騎、麃公と呉慶の戦いを目にし、再び戦に対する熱き思いに火がともる。
⭕趙国で、新しい"三大天"に李牧が任命される。
李牧は趙国の武威を中華に示すため、列国の脅威である存在の王騎に目を付ける。
⭕李牧は、王騎を討ち取るために時間をかけて大掛かりな策を講じたり、王騎に因縁のある龐煖を探し出し総大将にすることで王騎を戦場へ誘い出す。
⭕王騎、六将仲間であり、妻になるはずだった存在である摎の仇を討ち、過去のしがらみと決別して政とともに中華統一への路を進むことを決意。
⭕王騎、因縁の相手・龐煖との一騎討ちで敗北。
内容的には勝っていたといえるも、背から放たれた矢に射たれ、隙をつかれて討たれる。
⭕王騎、
強大な敵(李牧)が背後にいたために龐煖を仕留めることが叶わなかったものの、
戦国の時代の流れに生きる己を誇る。
また、未だかつてない強敵に対抗する新しい芽(政陣営、信)や、次の時代を担う将(蒙武)の力を確認でき、信頼できる後継者(騰)や慕われた兵(王騎軍)に囲まれながら、思い残すことなく生涯を終える。